きろうの忘備録

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気象予報士受験録

はじめに

少し前の話ですが、独学で昨年の第55回気象予報士試験に合格して気象予報士となりました。それ以来たまに勉強方法や使った教材などについて聞かれるのですが、日がたつにつれてだんだん忘れてきてしまったのでここらで勉強に用いた教材等をまとめておこうと思います。

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気象予報士登録通知書

勉強スタイルや勉強時間

勉強スタイル

基本すべての教材をスキャン、PDF化してiPadに入れ隙間時間(通勤時間や仕事の後のカフェ勉など)を演習にあてまくりました。実技試験対策は最初慣れないうちと試験前の本番想定での演習はプリントして行っていましたが、慣れて量を増やす段階になってからはひたすらiPadでやっていました。

勉強時間

一日にどのくらいあてられるかは人それぞれなので「〇年かかった」は意味がないと思います。私自身の場合はアプリで管理してた勉強時間を見直したところ320時間ほどでした。一般に1000時間とか書いているのも目にしますが、根拠もよくわからないため、そこまでビビらなくて大丈夫かと思います。

学習に使用した教材

学科(一般・専門知識)

技術評論社気象予報士かんたん合格テキスト 」

学科対策でよく用いられる教科書です。演習内容も充実しており、学ぶことができます。まずはこの二冊を一読し、演習も一通り解いて、演習教材に早めに移行しましょう。 あくまで基礎知識が身に着けるのが目的の場合は中古でも悪くはないですが、できれば最新版を買うことをお勧めします。というのも関連法規や警報、数値予報技術などは日進月歩であり、変わりゆくものだからです。例えば私は専門知識は2014年発行の初版を使用しましたが、以下の点で現行運用と違う点がありました。

また最新版の場合でも発行年を調べて必ずその年度以降の変更を調べる、出版社のサポートページを参照するなどしましょう。

gihyo.jp

新星出版社「この一冊で決める!!気象予報士過去問徹底攻略」

技術評論社の教科書を一読した後の演習に用いました。分野ごとに分かれており、弱点補強にも使いやすかったです。

実技試験

ナツメ社「気象予報士実技試験合格テキスト&問題集」

基礎から演習までこなせる万能書です。過去問を使用しているため、記述の書き方も信頼できます。よく出る以下の気象現象の演習がついています。

技術評論社「らくらく突破気象予報士簡単合格テキスト実技編」

同じく基礎の学習から演習までこなせる万能所です。こちらは独自問題を使用し、記述の部分点まで分析しており、記述の行い方まで学習できます。以下の分野の演習問題が付属します。

  • 低気圧
  • 不安定現象と北東気流
  • 四国豪雨
  • 梅雨
  • 冬型
  • 台風
  • 寒冷低気圧

学科対策にも実技対策にも有用

気象庁 過去問と解答例

気象庁公式の過去問と解答例です。解説はありませんが、無料でさらに、気象庁が求める記述も手に入るため、実技対策として使わないのはあり得ないです。ただいきなり突っ込んでも意味がないため、 テキストで一通り基礎知識を学んでからのほうがいいでしょう。また学科試験対策としても演習の補強と近年の傾向の把握に有用です。

www.jmbsc.or.jp

めざてん

北上大様が運営されている気象予報士試験の解説サイトです。個人の方の運営ですが、歴も長く信頼のおける解説のおかげで演習量をかなり増やすことができました。動画解説もあり、問題の難易度や傾向の肌感覚も学べたのはとても大きかったです。(この公式解答はちょっと納得しがたい...みたいなボヤキも泥沼にはいらないために役立ちました(笑))

kishoyohoshi.com

東京堂出版気象予報士試験 模範解答と解説」

各年度の気象予報士試験の模範解答と詳細な解説です。演習というよりかは近年の傾向把握のために使いました。最新号の一冊は手に入れたいです。各科目の勉強法や試験の出題傾向のみならず、近年の気象関連のトピック(法改正やスパコンの更新などなど)は絶対に抑えておきたいです。

逆に使わなかった教材

東大出版社「一般気象学」

一般知識の教科書としてちょくちょく取り上げられてきましたが、気象予報士試験対策としては不要な数式が多すぎます。むろん気象予報士試験で使う知識も多いですが、今では解説本が数多あるため試験対策としては読む必要はないでしょう。あくまで「気象学」の本です。 しかしながら、良書であることには違いないため、予報士とは関係なく気象学の入門として手に取ることはお勧めできます。

その他気象庁関連資料(補足)

一読の必要はありませんが、参考、補足資料として有用だった資料をいくつか挙げておきます。

気象庁観測ガイドブック

雨量計、風向風速計、温度計といった観測機器についての解説本です。学科専門知識でたまに問われるためその際の参考資料としておりました。

www.jma.go.jp

数値予報研修テキスト

数値予報についての最新の動向を知ることができるテキストです。少し量が多すぎるため、付属のスライドを流し読みしました。

www.jma.go.jp

災害をもたらした気象事例

予報士の試験とは直接は関係ありませんが、日本に大規模災害をもたらした事例を解説しています。予報士を目指す人ならば目を通しておいて損はないでしょう。

www.data.jma.go.jp

試験所感と気象庁ってすごいねっていう感想

難関試験とされており、事実難しいですが、一番肝心なのは「いかに勉強時間を確保するか」これに尽きると思います。演習さえこなせば特別に難しくはないのですが、特に時間がなく演習が不足している社会人も多く受けるため、合格率の低さにつながっているのではないかと推測します。私自身働きながら取りましたが、やはり演習量を増やすことが目下の課題でした。

また一見理系的な試験に見えますが数式的なことを問われることはほぼなくむしろ文系的な試験だと感じました。特に実技試験については、「この問題についてこのような聞かれ方をした時には、必ずこの要素を入れる。文字数が余れば次にこの要素を足す。足りなければさらに…」みたいな感じで、理解したうえで気象庁が求める回答をしなければならず国語的だなと感じます。ただこれはそもそもの気象予報士制度の「気象庁のデータを適切に利用する」という目的からしても自然なものでしょう。

気象予報士制度は、気象業務法の改正によって平成6年度に導入された制度です。  この制度は、防災情報と密接な関係を持つ気象情報が、不適切に流されることにより、社会に混乱を引き起こすことのないよう、気象庁から提供される数値予報資料等高度な予測データを、適切に利用できる技術者を確保することを目的として、創設されたものです。

引用元: 気象庁 | 気象予報士について (2022/3/12アクセス)

最後に勉強してて感じたのは気象庁ってすごい」ってことです。自然が相手ですから、予測精度を上げようとスパコンの更新やモデルの改良などが計画的に行われており、科学力の投入が活発に行われている印象でした。 一方で日々の我々の行動や交通機関の運航、避難指示など国民生活や産業活動に密接にかかわっています。東日本大震災では津波警報の深刻さがうまく伝わらず、「特別警報」の導入につながりました。

www.jma.go.jp また昨年2021年には避難指示全般の改定も行われています。 www.gov-online.go.jp

しかしながら予報には限度があります。災害が起きた時に予報がすでに出ていた確率を上げるには、予測の確率が低くても出すということになりますが、そうすると空振り率も大きくなり、いわゆるオオカミ少年となります。近年では社会でそれを受容する方向に動いているのではと感じます。例えば大型台風の接近前にはあらかじめ前日に鉄道が運行停止を決めるようになってきました。避難訓練では「100回逃げて100回来なくても、101回目も逃げよう」といったスローガンが掲げられるようになってきました。

自然相手に科学力で立ち向かう一方で、人相手にいかにしたら国民生活に寄与できるか試行錯誤してきたかが垣間見え、ただ頭が下がる思いでした。